政治体制の一つに、議会制民主主義または代議制と呼ばれる制度が存在します。それは、議会のメンバーである議員を市民による投票によって決定するシステムです。日本における国政選挙、そして地方議会の議員を選ぶ選挙においてもこの制度が採用されています。国民や市民が直接統治を行うのではなく、人民の代表である議会によって立法が行われるという制度です。一方で、この制度に対する批判の声が存在します。様々な批判の内で代表的なものは、代議制の下では議員を選んだ後は議会が国民の意思に反した行動をとりうるのではないか、人民の代表というものはありえないのではないか、という批判です。このような批判がさらにもう一歩進めば、直接民主制という考え方に行き着くことがあります。直接民主制とは、世界的には例が少ないのですが、簡単に言えば人民自らが立法や統治を行う制度のことを言います。古代ギリシアのアテネや現在のスイスの政治においては、直接民主制の要素が存在します。民主主義を巡っては様々な意見が存在することは、ある意味では当然のことです。私自身は、民主主義の本質について次のように捉えています。民主主義とは、”少数(few)”と”多数(many)”とのバランスをとることである、と。民主主義は、本質的に独裁制とは相容れません。独裁を行いたいのであれば、民主主義という面倒な制度を採用するメリットはありません。民主主義とは、バラバラの多くの意見を尊重しようとする力とそれを一つにまとめようとする力が同時に働くことによって成り立つ制度であると思います。出来るだけ多くの意見を尊重しようとすれば、それらの意見をまとめ上げることは難しくなります。他方で多くの意見を一つにまとめようとすれば、必ずしも全ての意見が尊重されるわけではなくなってしまいます。また民主主義とは、政府や議会が誤った政策や立法を行った際にそれを修正することが出来る制度でもあります。民主主義は、批判を自身の内側に組み入れたものであると言うことが出来ると思います。この点が、独裁制との大きな違いです。通常の独裁制の場合、為政者が誤った際にそれに対し外から”ノー”と言ったり他人が影響力を及ぼすことが出来る制度を保証してはいません。つまり民主主義は、極端を好まないのです。直接民主制絶対主義は、必ずしも民主主義の本質を捉えているわけではありません。アテネにおいて、市民権を得ていた人は住民全体の二割程度の数しかいなかったとも言われています。八割の奴隷の人々のおかげで成り立っている社会を、民主的と言うことが出来るでしょうか。私は「人民の代表」というものがありうるのか、それともありえないのかといった議論自体に意味が無いのではないかと思ってしまいます。なぜなら、民主主義という制度自体が本質的に最初から完璧を目指しているわけではなく、漸進的な発展を目指すものであるからです。民主主義は、初めから理想が存在するとは限らない制度であると私は思います。しかし一方で、民主主義を達成するにおいて不可欠の原理も存在すると思います。例えば、基本的人権の保障が挙げられます。基本的人権を保障せずに民主主義を達成することは不可能ではないか、と私は思います。思想良心の自由、表現の自由、財産権などの基本的人権が保障されて初めて、民主主義は成立しうるのです。それらが保障されなければ、実質的に民主主義ではなくなってしまいます。民主化の発展途上にある国においては、半ば強制的に基本的人権が保障されなければならないと私は思います。なぜなら基本的人権を保障されていない国民に信を得た事柄が、必ずしも正義を代表するとは限らないからです。例えば、国民の大半が基本的人権の保障に否定的な意見を表したからといって、基本的人権が無視されて良いという結論を導くことは出来ません。この場合、人権の保障は民主主義にとって必要不可欠な前提であるにもかかわらず人権を否定することで、結果的に自ら民主主義を否定することになってしまいます。これは一種の自己矛盾に他なりません。為政者を決めるのは基本的人権を持った国民であるのだから、為政者は間接的に人権によって信を与えられているということも出来るのではないでしょうか。基本的人権の保障は、為政者にとってもメリットがあるのです。真に民主主義を行うためには、まず選挙を行うのではなく、基本的人権の一環としての参政権というように視点を変えてみることが必要なのではないでしょうか。人民の代表がありうるか、ありえないかといった議論は、民主主義の本質を捉えてはいません。民主主義は、誰が選ばれたとしても修正をかけて漸進的に達成するものであるからです。それゆえ、完璧な民主主義というものは存在しません。しかしそれと同時に、民主主義は正義を実現するためのアイディアを考えるきっかけを与えてくれるものでもあるのです。民主主義は、私たちの正義を実現するための言動を常に待ち望んでいます。

 

正義のアイデア

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  • 作者: アマルティアセン,池本幸生
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